平成22年10月27日水曜日

授かった命 避難先から1時間、お母さんは歩いた 奄美


 鹿児島県奄美大島の豪雨で被災した奄美市の主婦西村しおりさん(36)が22日、男の子を出産した。道路が土砂で埋まり電話も通じない中、徒歩やボートで約1時間かけて病院にたどり着いた。被災地から、希望の命が生まれた。



 しおりさんは被害が最も大きかった同市住用町に住む。出産予定日が5日後に迫った20日、自宅周辺は濁流にのまれ、身動きができなくなった。水が引いた21日早朝、地元の奄美体験交流館に避難したが、すぐに陣痛がきた。産婦人科がある同市名瀬の県立大島病院に向かう国道58号は土砂にふさがれ、電話もまったく通じない。雨は降り続き、いつ新たな土砂崩れや冠水が起こるかわからない。夫の恵一さん(37)と話し合い、「動けるうちに動こう」と、歩いて病院まで行くことを決めた。



 地元消防に相談すると、消防隊員4人が付き添ってくれた。早速、車で出発したが、すぐに土砂崩れに阻まれた。消防が用意した救命ボートに乗り換えて入り江を渡り、消防隊員が渡したロープに引っ張られてようやく岸に上がった。しかし道路は土砂や大きな岩に覆われ、停電で真っ暗なトンネルにも土砂が流れ込んでいた。転ばないよう注意しながら一歩一歩進んだ。



 トンネルを出ると、救急車が待ってくれていた。病院に着いたのは出発から1時間余りの午前11時ごろ。直後に陣痛が激しくなり、22日午前1時35分、しおりさんは3202グラムの男の子を産んだ。



 漕太(そうた)ちゃんと命名した。西村さん夫妻が歩んだ病院までの道のりのように、ひとこぎひとこぎ、目標に向かって歩んでほしいとの願いを込めた。



 しおりさんは「今は感謝の気持ちでいっぱい。振り返ると、自分の命が助かっただけでも奇跡。漕太が大きくなったら、たくさんの人に助けられて生まれたんだよ、と聞かせてあげたい」と話した。(斎藤徹)

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